日本語連作賞

1位 :  佐佐木頼綱 

森の夜に星ひとつづつ灯すごと義⽗が⼩路に突ける⽩杖

茶托にも茶碗にも指つまづかせ縁取られゆく義⽗の輪郭

笑ひ顔⾒たくて触れる孫の頬夏⾬を受く向⽇葵に似る

⽬の⾒えた少年時代を語るときあなたの闇に⽴つ夏の雲

波の⾊おもひ描いて陽に焼けて係船柱乾きつつ⽴つ

束ねたる点字楽譜を抱くなり義⽗の⾒てゐた海の凸凹

整列の義⽗の点字を公園の野外舞台に遊ばせてゐる

夏⾵にする気であらう賑やかに⾳符は五線譜を駆けのぼり

視⼒ある者が眼差し向けるたび夏陽を返す指揮棒の⽩

メロディーに⾊思ふ時いつせいに群⻘⾊に染まる公園

⽬の⾒えぬ⼈がゆつくり向き直し拍⼿の真中に深く礼する

⼈⽣の境界線のごとくあるかたみを過ぎる花束の⾹ぞ

曳いてきた義⽗の⼤きな⼿のひらは残れり我の輪郭として

にぎやかな星空になると吾 あ は思ふ或る作曲家の盲⽬の闇

アイマスクして⽬を瞑るしんしんと夜よりも濃き夜を我は抱く

2位:  松本実穂

小雪舞ふ外海(そとめ)の丘の道の駅すいせんの花たふれつつ咲く

切支丹の隠れゐしといふ島ふたつ膝を抱へてうずくまるごと

湧き水に映れる雲と底をゆく錦鯉との澄みきつた距離

間違へて上つたやうな半月が電線の上に座つてゐたり

切支丹はわがルーツかと母に問へばなつかしさうに顔を背けり

3位: 櫟原聰・楠誓英・森垣岳

櫟原聰

りんごひとつ手にもつ時に空深く果実に降るは果実の時間   『光響』抄

はるかなる祈りはきこゆ近寄れば樫ひとしきり葉を降らせたり

流れ星出づる星座のひそけさも地に棲むわれも深き闇なり

おのづから塩噴き出づる腕ありき海より上がる人のかなしみ

楠誓英

錯乱と錯乱のなかを咲くさくら狂つたやうにマスクは売れて

教室は仰向けのまま冷えゆきし椅子の墓原休校つづく

奪ひあふ末世のすゑに牛頭  馬頭 の神仏恋ふる時こそ来らめ

まなこ閉ぢ見えざるものをおもふとき仏陀の象のごとき歩みは

森垣岳

子の指の爪はちいさきさくらばな散ることもなく春あたたかし

子の描く桜は自由 いにしえの樹木かたどる以前を描く

押入れの陰より見える一歳の手はひらひらと舞うシジミチョウ

にぎやかに子どもをあまた実らせてジャングルジムの大樹暮れゆく

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―候補作―

吉川美穂子  

踏みしめる土の感触憶えつつ我はどこまでゆけるのだろうか

風の吹く荒野に我とユーカリは白い牡鹿のように佇む

太田蘭    

空っぽの缶を地面に落としたらカランと僕の音が聞こえた

石田郁男   

夕暮れに錘のごとく洋梨のぶら下がりおり思う人あり

御手洗靖太  

靴下の揃ふことなき日曜のどこか行くはずだつた昼過ぎ