1位 : 小城小枝子
ふた親もはらからもみな身罷りぬ抱かれるべき祖国の霞む
実家とふ塒(ねぐら)をもはや持たざれば飛翔つづける広き九天
子は嫁して小城家の終となりし吾無縁仏の果ての世界は
小城名乗る終はりとなりし我の目の空に水脈ひくジェット機を追ふ
なべてものの土にかへるがさだめなれば国籍などは微塵の芥
2 位 : 喜多弘樹
白つばきわがみなもとに咲きつぎて脈絡もなく水湧き踊る
さびしさの川遡り筏師よさびしさを鷲づかみせよ
はらわたに銀河かかれりしんしんと宇宙開闢を語りはじめき
血縁の濃さたどるごと焼香の列おのづから細き河なす
サラブレッドは三頭の祖に行きつくと学びても馬券当たることなし
3 位 : 松本実穂・中島裕康
松本実穂
あかあかと桜もみぢの降る山に鳥の姿に飛ばすちちはは
町名に桜のあればはらはらと降りくるものをふるさとと呼ぶ
中島裕康
薨るに我が名呼びける大母の長火鉢なるああ金平糖
人の子は20万年彷徨ひて東の涯に桜愛でたり
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―候補―
服部崇
若かりし祖父が堀りにし井戸のみづ枯れて随分時の過ぎたり
増渕英子
私の何十兆もの細胞がその村の風と光に満ちる
日比野美鈴
たおやかないのちの宝庫琵琶湖にはかなしみ吸いとる優しさがある
菅原秀太
セザンヌと同郷の君が塗る色は僕よりかなり前向きな色
福田真郷
まわるまわるまわる海産物 誰も取らぬイカの寿司 これ、おれだ
龍本那津子
博多にて生まれし子ゆゑ父母は我に那の津の名を負はせたり